「作品解説」カテゴリーアーカイブ

「追憶と、踊りながら」レビューby石井良美

冒頭、李香蘭の唄う「夜来香」が流れる。シックで趣味の良い壁紙と部屋がなぞるように映し出されただけで私は心をつかまれてしまった。
なんという映像センスの良さ。
故郷カンボジアを離れ今はロンドンの老人ホームに暮らすジュン(チェン・ペイペイ)はイギリスの文化になじめずいまだ英語が出来ない。
時折訪ねてくる、美しく成長した一人息子のカイ(アンドリュー・レオン)に「私をこんなとこに閉じ込めて!」と不満をぶつけるが、
彼はいつも優しく受け止める。
今日は「明日のディナーに来て」と何か言いたげな様子だ。
ジュンのもとにリチャード(ベン・ウィショー)が訪ねてき交流を持とうとするがジュンは一向に解さない。実は彼はカイの恋人だったのだ。
カイは母にカミングアウトしないまま云っていってしまった。リチャードを恋人と紹介するはずだったディナーは実現することはなかった。
ジュンは介護ホームで出会ったイギリス人男性アランとの恋で息子を失った悲しみを埋め合わせて行くのかと思いきや、
言葉がまったく通じない二人の恋は思わぬ展開を見せる。リチャードが二人の恋を応援するかのように、
介護ホームに通訳の中国人女性ヴァンを連れて来たのだが、かえって言葉が通じなかった頃のほうが二人の関係がうまく行っていた。
言葉はコミュニケーションにとって重要だけど、時には厄介もの。実は言葉の通じないところで心が繋がることもあるのだ。
ネタバレになるので最後まで書かないが、心を開かないジュンとあることがきっかけで2人の心は打ち解ける。
それは「言葉」ではないんだよね。画面の2人と一緒に泣いてしまった。
この映画のもうひとつの見どころはリチャードとカイの恋だ。明るい日差しの中、真っ白い部屋での2人のラブシーンが美しかった。
とても自然で優しいシーンだった。
澄んだ冷たいロンドンの空気の中で、大量の言葉をタペストリーのように紡いでいくような映画。
初長編作品とは思えないような落ち着いた作風。
私は最初、繊細な作風とお名前からてっきり女性監督だと思い込んでいた。
ちなみにホン・カウ監督も主役のベン・ウィショーもオープンリー・ゲイである。
やっぱり!監督、そうだったのね。
(石井良美)

「ソウル・フラワー・トレイン」レビューbyユカリーヌ

2014.1.20(月)、大阪の中でもかなり
ディープで昭和な町 十三の第七藝術劇場で観た
「ソウル・フラワー・トレイン」。

以前、京都で行われたシナリオワークショップで
教えていただいた西尾孔志氏の監督作品。
原作はロビン西の漫画。

大阪への愛とストリップ劇場への想いを
感じるヒューマンドラマ。

上映後に西尾監督が舞台挨拶をした時、
「寅さんみたいな映画にしたかった」と
述べられたが、寅さんファンの私にも
それが伝わってきた。

笑えて、泣けて、せつなくなって、
お色気もあるのに、心がほっこりとした。

原作はオッサンの話しなのだけど、
映画では、キュートな女の子をメインに置き、
彼女の抱えたドラマを描くことで、
父親と娘のドラマと対比させ、より深みが増し、
バランスよく、どの人物も生き生きと息づいていた。

伏線の張り方やアイテムの使い方も絶妙で、
原作の雰囲気を残しつつも、女の子が
素敵に描かれ、どこを切り取っても愛しさが感じられる。

「ストリップ芸大全」という本をSNSで
アップした時、「花電車って何?」と質問され、
説明したところだったので、映画の中で
花電車ショーが出た時は、ニヤニヤした。

ファザコンだったくせにロクデナシの私は、
特にこの映画の中では、自分と重なる部分もあって、
平田満演じる父親の気持ちに寄り添ってしまい、
泣けたし、父に心配をかけていたのだろうと、
心がとても痛くなった。

(ユカリーヌ)

実行委員長が語る 第11回映画祭作品解説+なぜ選んだか+見どころ

Aプログラム:「追憶と、踊りながら」

主人公は白人のイギリス人男性と、カンボジア系中国人の女性。
恋人を亡くしたゲイの男が、彼のお母さんを訪ねて介護ホームに行く。
恋人のお母さんの世話をしたいと思って、面会に行く。
死んだ息子と恋人同士だったことは言えず友人としてお母さんの面倒をみようとする。
ふたりは言葉がつうじない。英語と中国語だから。通訳を頼んで会話していく。
お母さんは愛する息子を失った悲しみがあるし、男も彼氏を失った悲しみがある。
最初は言葉も通じんし、ひげづらの白人男性だし、お母さんは最初怪訝そうな様子。
なんでこの人自分の面倒見に来るんだろう、って感じだったけど、だんだんと、ああこのひといい人なんやな、息子が大事にしとった友達だからいいひとなんやな、って感じで。
すごく仲良くなるわけじゃないんだけど、ちょっと距離が縮まるくらいの感じで。
男が恋人と一緒に住んでいた家にお母さんを招いて食事でもてなす。
実は恋人だったってことも伝える。泣きながら。ふたりとも泣く。
落ち着いて映像もきれいだし、情緒的っていうか雰囲気もいい。しっとりした映画。
小規模で作られた映画だけど、キャストもスタッフもよかった。
深い感動があった。こういう状況あるだろうな、日本でも。そう思える話。わたしは感動して泣いた。
新作。香川初公開です。

Bプログラム:短編集

「ある家族の肖像」

実験映画的なドキュメンタリーで、香川県三豊市に住む、田中と川田の男性同士のカップルの日常を追っている。彼らの生活と周りの人々との関係、ゲイカップルとして地域に普通に受け入れられている様子が描かれている。
インタビューでも『ぼくらはこれで生きていく』という、前向きにどうどうと生きていくんだという感じが出ていて、淡々としていながら力強さもある。
地元香川です。とにかく観て欲しい。

「娘さんを僕にください」

コメディドラマ。FTMの主人公ルイがじゅんこというガールフレンド(彼女)の両親のところに挨拶に行く話。どんでん返しがあって、テンポがよく、とにかく笑える作品。お父さん、お母さんの気持ちも描かれていて、それも見どころ。
監督からのメッセージは、「恋愛は、性別や体ではなくて心が大切なんだ」。

「leave us alone」

ヒューマンドラマ。主人公は若い男女カップル。同性愛者に対して嫌悪感を持つ彼氏にショックを受けた彼女は、大好きなおじさんがゲイだと彼に話す。動揺して酔いつぶれ親友にもゲイだとカムアウトされた彼氏が、混乱と妄想の末に認識を変えていく姿を描く。
いままでのノンケの視点とは少し違って面白い作品。

Cプログラム:「ソウル・フラワー・トレイン」

父と娘の話。田舎から大阪の大学に行ってる娘にお父さんが会いに行く。
どうも娘の暮らしぶりがなんかキラキラしておかしいなってだんだん勘付くんだけど、実は娘はストリップ劇場で踊ってる。
娘にはもうひとつ秘密があって、それはガールフレンドがいるっていうことなんだ。
人情とか、大阪の文化が描かれていたのがおもしろかった。あと、ストリップを悪く描いていないのがいい。
父と娘の絆が感じられて、爆笑のあとほろっとくるようなストーリー。
この映画の原作になった漫画を読んだのだが、こっちもテンポがよい。
漫画の世界の魅力を拾い上げて、伏線を張ってよくふくらませている映画。
LGBT映画というくくりには入らない映画かもしれない。LGBTQであることは自分のアイデンティティとしては大事だけれども、生活の中の一部にすぎない。この映画ではそのことが描かれている感じがした。
単純におもしろかった!大阪のロードムービーです。

(インタビューbyあゆうこ)